フレンチトースト
さて、今週もまた土曜恒例モーニングでした。
だいたいガストなんですけどね。
個人経営の喫茶店に入る勇気はまだない。
ガストってチェーン店だし気軽に入れるから 、いろんな場所のいろんな店に入ったことがあるけども、この土曜日モーニングで利用させてもらったお店がほんとに、一番居心地が良かった。
地元の、一番近いガストは すごく混む。
ここは住宅街にあるのに、全然人もいない。
もしかしたらランチ以降は混むのかもしれないけど、とりあえず モーニングタイムは空席もぽつぽつありました。
人があまりいないことは必ずしもネガティブなことではなくて。
静かなご飯屋さんが好きです。私は。
・ ・ ・
今日頼んだのはフレンチトースト。
スープとドリンクバーがついて500円くらいだったかしら。
スキレットに乗って出てくるんだけど、熱々すぎて気をつけなければいけない。
出てきたときはステーキのようにジュージューいってて、あーこりゃすごいもん頼んじゃったなって思った。
備え付けのメープルシロップをたっぷり掛けてもなお冷えない。スキレットさまさま。
ナイフとフォークで切り分けて、熱いから一口サイズにして、食べる。
熱い!!! 熱い!!!!
ふーふーすればよかった。したことないけど。
別に猫舌じゃないんだけど、熱すぎると甘味がわからなくなる気がするので、しばし放置。
池袋ウエストゲートパーク、少年計数機を読み進めて、10分くらい経ったかな。
マコトがシャロン吉村に依頼されたところで一時中断して、もういい具合でしょうと一口。
やー、熱々ではないけど、普通にあったかい。こりゃすげえ。
ちょうどよい熱さになったフレンチトーストは、ふわふわでじゅんわりとメープルの甘みも染みていて、だけどまだ少しさくさくした触感もあって、おいしいよ。
厚切りのトーストを使っているから、結構卵液は染み込ませていても、中がだれなくて程よいやわらかさを保てているのだろうな。
卵液とメープルシロップをたんまり吸い込んだフレンチトーストは、冷めることなく私の胃袋に入っていきました。
卵と野菜の日替わりスープをおかわりして、硬めのボックス席に背中を沈めて一息。
時刻はまもなく10時になる。
・ ・ ・
実はこの日の朝、入店したときに言われた言葉がある。
いらっしゃいませ。いつもありがとうございます。
私がこのお店に来たのは、この日を含めてたった四回。
毎週土曜日の朝8時40分ごろから、10時頃までのわずかな時間。
自分の振る舞いが自分に関わる場所でなければ、愛想とは程遠い人見知りな自分だから、その言葉を言われて驚いたよ。
ちら、とその方の顔を盗み見た。そういえば、一番最初にこの店に入ったときに案内してくれ、そのあとも幾度か注文を聞きにきてくれていた方だった。
10時になって、荷物をまとめて席を立った。
レジではその人が対応してくれた。レシートはいりますか、いりません大丈夫です。
普段だったらそのまますぐ振り向いてドアに向かうけど、やめた。
いつもありがとうございました。
震える自分の指先を見ながらそう言ったら、その人は慌てたように笑いながら、いえいえ!とかなんとか言ったから、被せるように続ける。
もう、ここに来れないので。
エッ何でですか? 引っ越されるんですか?
そういうその人の顔が寂しそうに見えた、気がしたので、すこし嬉しくなった。
このひと月の土曜だけ所用で来ていたこと。あなたの接客は素敵なものだということ。
そしてもうここには来ないということ。そんなことをぽろぽろと伝える。
短い間だったけれど、本当にありがとうございました。
すこしだけ頭を下げて、逃げるようにレジカウンターから離れた。
お元気で。
その人はそう言った。響いた。ドアポールを掴みかけていた、顔だけ振り返って会釈する。その人がどんな顔をしていたか、勇気のない私は見ることができなかったけれど、嬉しいと笑ってくれていたらいいなあ。
この日、いつもありがとうございますと声をかけられなければ、私も何も言わずいつも通り会計を済まし、そしてこれからこの店に来ることもなく、この方のことも忘れてしまったことも気づかないくらい、忘れていったんだろう。
フレンチトーストの味は多分、すぐ塗り替えられていくだろうな。
だけどこの人のことはきっと忘れないだろうな。